動物病院の麻酔のお話(5)
動物病院の麻酔のお話(藁戸由樹)
獣医師の藁戸です。
久しぶりのブログとなりました。
今回は当院に導入している麻酔に関するちょっと特殊な機器についてご紹介します。
ご紹介するのは、
「TOF-Watch 」(トフウォッチと呼びます)
というものです!
この機器の役割は2つ。
(1)筋弛緩モニタリング装置
(2)神経探知刺激装置
と言ってもわかりにくいので具体的お話していきます!
(1)筋弛緩モニタリング装置
わんちゃんやねこちゃんに麻酔をかける理由の一つに、筋弛緩を得るという事があります。
緊張すると、人間もそうですが、体がカチカチになりますよね?
カチカチだと上手く手術が出来ません。
そこで、筋肉を和らげる事が必要です。
そこで、筋弛緩薬というお薬を使います。筋弛緩薬は、自分の意識で筋肉を動かす事が出来ないようにするものです。
そうする事で筋肉を和らげる事が出来ます。
でも、自分の意識で体が動かせなくなるって、怖いですよね⁉︎
もちろん、毎回毎回、全ての麻酔で筋弛緩薬を使っているわけではありません!
実は、わんちゃんやねこちゃんは筋弛緩を得やすい動物で、注射麻酔(動物病院の麻酔のお話 (2) を参照下さい)や吸入麻酔というもので、十分に筋弛緩が得られるんです。
じゃあいつ使うのか?
ある状況下において、筋弛緩薬は必要となるわけですね。
代表的なものは開胸手術になります。
開胸手術とは、胸を開けて、心臓や肺、食道などの手術をする事です。
当院では乳糜胸、肺癌、胸腺腫瘍、食道内異物や食道腫瘍、先天的な心臓病である動脈管開存症などの手術を実施しています。
開胸手術では、安全性を確保するために、確実に動物の自発呼吸や体の動きを止める事が必要となります。
その時に、筋弛緩薬が必要になるわけですね!
筋弛緩薬は必ず、気管内挿管を実施し、たくさんの生体監視装置を用いて、万全の状態で使用します。
その時、とても大切になるのが筋弛緩モニタリング装置です。
このモニターで、
お薬がちゃんと効いているのか?
あるいは
お薬は体から無くなって効果は消えているのか?
がわかります。
筋弛緩薬を使用するにあたり、良くないことは、お薬の効果が麻酔から覚めた後も残ってしまうことです。
そこで、このモニターを使って、きちんとお薬の効果が切れている事を確認する事が必要になるわけですね。
ヒトの医療でもこのモニターを使用する事を強く推薦されています。
当院でもこのモニターを使用して、麻酔の安全性向上に努めています。
麻酔は、獣医師の観察力も大切です。
しかし、どれだけ頑張って観察しても、体の中のお薬の事は見えません!
今回ご紹介した、特殊なモニタリング装置を使う事で、見えないものを可視化して、安全にお薬を使用する事が可能になります。
もちろん、筋弛緩のお薬を使わないというのも一つの選択肢かもしれません。
(昔の獣医療ではあまり使われていませんでした)
しかし、使えるお薬の選択肢が増えれば、手術の幅や、安全性が向上するという考えもあると思います。
あまり皆様の目には触れない事ですが、麻酔はこういった細かい事の積み重ねが、大切なのだと私は思っています。
読んでいただきありがとうございます。
長くなりましたので、
(2)神経探知刺激装置
については、次回お話しします!