動物病院の麻酔のお話(4)短頭種の麻酔
動物病院の麻酔のお話(藁戸由樹)
獣医師の藁戸です。
今回は前回の挿管の時にお話しした、「短頭種の麻酔」に関してです。
そもそも短頭種とは?
頭の幅に対して縦の長さが短い犬種の事を言います。パグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、ペキニーズ、シーズー、チワワなどのワンちゃんたちです。
短頭種の麻酔は気をつけるべき点が複数あります。
1. 鎮静剤の投与は慎重にすべきである
2. 気管チューブのサイズは小さいものも複数準備しておくべきである
3. 動物がストレスを感じなければ麻酔前の酸素化をすべきである
4. 静脈麻酔薬を使用して速やかな麻酔導入をすべきである。マスク導入は推奨されない。
5. 意識が速やかに戻る薬物を使用すべきである。拮抗薬のある薬物は有用である。
6. 挿管後は気道の閉塞を発見するために、患者の呼吸音と呼吸様式を観察すべきである。
7. 伏臥位で頸部を伸ばし、舌を引き出して気道を確保するよう試みるべきである。
WILEY Blackwell, Veterinary Anesthesia and Analgesia The Fifth Edition of Lumb and Jones より引用改変
麻酔の教科書にはこのように細かな注意点がたくさん記載されているんです。
ではなぜ短頭種の麻酔はリスクが上がるのか?その理由はほかのワンちゃんとは異なる「呼吸器の解剖」にあります。
ではなにが違うのか?
まずわかりやすいのが、
❶鼻の入り口が狭い
パグやブルドッグで顕著ですが、お鼻の入り口が狭くなっています。
狭くなっているため空気が通りにくくなってしまいます。

つぎは、
❷鼻の中の構造が窮屈
鼻の中には鼻甲介(写真黄枠のグレーの部分)と呼ばれる板のような構造物があります。短頭種は鼻が短いため、鼻甲介がギュッと詰まったようになってしまいます。

❸軟口蓋が長い

写真はワンちゃんの口を大きく開けて、軟口蓋をひっぱっている所です。
軟口蓋はヒトにもありますが、舌で上顎を触っていくと硬い部分から柔らかい部分に移っていきます。この柔らかい部分が軟口蓋です。短頭種はこの部位が長い子が多く、長い軟口蓋が喉の奥、気管の入り口を塞いでしまいます。
この3つの特徴からなんとなく短頭種の子たちの呼吸がイメージできたでしょうか?
呼吸するのが大変そうですよね!
短頭種の子たちは、このような呼吸器で毎日生活しています。
するとどうなるか?
頑張って呼吸をしていますので、負担が生じます。
喉が腫れたりよじれたり、気管が潰れたりしてどんどん呼吸がしにくくなっていきます。もっと頑張って呼吸します。
もっと腫れたり潰れたりします。
そうすると、気管の入り口が閉塞しやすくなり、麻酔の導入や挿管時に呼吸ができなくなったり、気道の入り口自体が狭く挿管できなくなる危険性が高まります。
ゆえに麻酔導入時には十分な酸素化と、呼吸抑制を最小限にする投薬、気道を確保する管理が重要です。
短頭種の麻酔リスクが高いと言われるのは、この導入・挿管の難しさに大きな理由があると言えます。(※麻酔維持中や麻酔後にも注意すべき点は多々あります)
・夜にイビキをかいていませんか?
・興奮するとすぐ、ガーガー、フガフガといいませんか?
・運動するとすぐ疲れませんか?
このような症状が当てはまる時はトラブルを生じている可能性が高くなりますので、獣医師に相談して下さい。
「短頭種だから麻酔は出来ないですよね?」
このようにお問い合わせいただくケースも少なくありません。
短頭種だから麻酔ができないという訳ではありません。
それぞれの個体のリスクを評価し、適切な手法で麻酔を施すことが大切です。
お困りの際はぜひご相談ください。