動物病院の麻酔のお話(2)
動物病院の麻酔のお話(藁戸由樹)
獣医師の藁戸です!
今日からは私たちが日頃よく実施している麻酔法について説明します。
使っているお薬のことや、麻酔中どんな事をやっているのか、手術の痛みはどうやって抑えているのかなどなど、いろいろお伝え出来ればと思います^ ^
まずは、麻酔の基本的な流れについて!
わかりやすく分けると大まかに以下のようになります。
(1)導入
(2)挿管
(3)維持・鎮痛
(4)覚醒
(5)抜管
(6)麻酔後管理
ひとことに麻酔といっても、実はいろんなステップがあるんです!
そして、手術が終わったら麻酔は切れます。でもその後の管理もとても大事なのです。
それぞれ順を追って説明していきますが
今日は(1)導入についてです!
(1)導入
これは手術ができるレベルまでお薬を用いて麻酔をかけていく事です。これにより動物は意識を消失するわけですね。
怖いことも忘れてしまいます。
私たちがよく用いるお薬はプロポフォールというものです。
当院では年間約900件、麻酔を実施していますが、そのほとんどはプロポフォールを使用しています。
プロポフォールは人医でも一般的に用いられているお薬です。
このお薬のいいところは、すぐに効果が得られるし、かといって麻酔は長引かない!という事です。
怖がりのワンちゃんやネコちゃんは、麻酔の導入の際に、時折大暴れしてしまう事があります。
知らない人ばっかりに囲まれているわけですから怖いに決まってますよね・・・
暴れてしまうと本人がけがをしてしまいます。ましてや病気の体。余計に体力を使ってしまいます。
心臓が悪い子はなおさら注意が必要です。
怖くて暴れるだけで失神してしまう子もいるわけです。
いまから手術に挑む子たちのストレスは極力少なくしてあげたい。
そんなときに、素早く効果がでるお薬はとても役に立ちます。動物がドキドキする時間も短くて済みます。
多少暴れても私たちが押さえつける必要もありません。
麻酔が終われば、簡単な手術なら1時間後にはまっすぐ歩いて帰れます。
ただし、もちろん副作用もあります。
このお薬は呼吸を止めたり、血圧を落としたりする作用もあります。また数は少ないですがアレルギー反応も起こる場合があります。
怖いですよね。
なので、このお薬を使うときは動物の呼吸や循環をしっかりと管理しながら慎重に麻酔の導入を実施しています。
不必要に呼吸を止めないように、極力血圧を下げないように。
どのお薬にも副作用というものはありますが、特徴を知って対策を立てる、緊急時に備えるという事が最も大切です。
獣医師である私たちがお薬をどう使うかにかかっていると思います。
小動物における周術期死亡率
The Veterinary Journal 182 (2009) 152–161
Review Perioperative mortality in small animal anaesthesia
すこし前ですが、この報告には周術期に死亡した動物の6~8%が麻酔導入時であったと記載されています。
このデータからも麻酔の導入というのは、とても重要な場面なのです。
こんなことを言われると怖くなりますね。
でも恐れていては麻酔を実施することはできません。そのためにリスクは知っておかなくてはいけません。
私たちはこのリスクを0%に少しでも近づけるため、努力していきます。